まずはここから!育成ロードマップのトレーニング編の第2回です。
今回は「内的焦点」と「外的焦点」についてお話します。
・プレーのコツを掴みやすくなる
・意識ひとつでプレーが変わる
そんな内容になっています。
トレーニングを自分の成長に繋げるために知っておいて損は無い内容だと思いますので、是非読み進めていただきたいと思います。
早速ですが、野球の練習や指導をしていて、こんな経験はありませんか?
「肘を上げて」「腰を回して」とフォームを意識すればするほど、動きがぎこちなくなる。
YouTubeで最新の動作解析を学んで実践しているのに、実際の試合では全く打てない、投げられない……。
実はこの現象は、勉強熱心な指導者や向上心の高い選手ほど陥りやすい「教えすぎ・考えすぎのジレンマ」なのです。
私自身も知らず知らずのうちに陥りがちになってしまう現象です。
本記事では、運動学習科学の視点から、パフォーマンスを劇的に変える「意識の向け方(注意の焦点)」について解説します。
2つの「焦点」:あなたはどこを意識しているか?
何か新しい動きを身につける際、人が「何に注意を向けているか」は大きく2つに分けられます。
- 内的焦点(Internal Focus): 動作を行っている自身の身体部位や、その動きのメカニズムそのものに注意を向ける状態です。「リリースで手首をスナップさせる」「腰を回して打つ」など、理想の「形」を作ろうとするアプローチです。
- 外的焦点(External Focus): 運動が環境に及ぼす影響、道具の動き、目標地点に注意を向ける状態です。「ミットに向かってボールを押し込む」「センターに向かって打ち返す」など、身体が自然にタスクを達成するように促すアプローチです。
結論から言うと、スポーツの動作習得・パフォーマンス向上においては「外的焦点」の方が圧倒的に優れていることが科学的に証明されています。
なぜ「フォームの意識(内的焦点)」はダメなのか?
動作解析が進んだ現代、「体はこのように動くのが正解」という事実が明確に見えるようになりました。
だからこそ、多くの人が「内的焦点」で練習をしてしまいます。
しかし、これが大きな落とし穴となってしまうのです。
人間の脳や神経システムは、反復練習によって無意識にスムーズな動き(自動化)を行う能力を持っています。
しかし、「肘をどう出すか」「腰をどう回すか」と意識的に体をコントロールしようとすると、この自動化されたシステムに脳が過剰に干渉してしまいます。
結果として、運動システムが「凍結」し、連動性が失われ、ロボットのようなぎこちない動きになってしまうのです(制約行為仮説)。
さらに悪化すると、プレッシャーのかかる場面で「どうやって投げていたか分からない」という、いわゆるイップスを引き起こす原因にもなります。
内的焦点と外的焦点の違い実験例
例として、次の動作をしてみてください。
右足を膝を曲げながら少し上げて踏み出し、右足が地面に着いた時に左足はつま先立ちで地面から離れるようにして、それを連続させます。追加の動きとして、手の動きは、右足を踏み込んだ時は左手を前に、左足を踏み込んだ時は右手を前に出すようにしてください。
どうでしょう。上手く動けましたか?
大雑把すぎる説明になっているかもしれませんが、私としては歩く動作をできるだけ簡単に伝えようとしました。
普段無意識でできている動きでも、内的焦点になっただけで全く別の動きになってしまう可能性があるということがわかるのではないでしょうか。
日本独自の「感覚的指導」の正体
野球界には「壁を作れ」「脇を締めろ」といった独特の指導言葉があります。これらは一見すると抽象的で、人によって解釈が分かれる「もやっとした感覚」に思えるかもしれません。
しかし、運動科学の観点から見ると、これらは誤解を生みやすい危険な内的焦点になり得ます。
- 「壁を作る」と意識すると、前足を突っ張ってしまい回転が止まる、あるいは怪我の原因になるリスクがあります。
- 「脇を締める」と意識すると、腕が縮こまり窮屈なスイングになります。
これらを正しい「外的焦点」に翻訳する必要があります。
- 「壁を作る」 → 「前の空間に見えない壁があると思って、そこには触れないように回転する」(環境への意識)
- 「脇を締める」 → 「グリップエンドを最短距離でボールに向ける」(道具への意識)
壁を作る例は、ちょっと無理矢理感があるかもしれませんが、外的焦点がどんなものかというのは何となくイメージできるのではないでしょうか。
解決策のヒントは「オノマトペ(擬音語)」にある
実は、日本古来のスポーツ指導の中に、科学的に非常に理にかなった外的焦点の手法が隠されています。それが「オノマトペ(擬音語・擬態語)」です。
オノマトペは単なる気合いの掛け声ではなく、「聴覚的外的焦点」として機能します。
例えばバッティングで「ズドン!」と振るように指導されたとします。この一言の中に、「重心を低く保つ」「インパクトを強くする」「タイミングを合わせる」という複雑な身体操作(内的情報)が、一つの「音情報」として圧縮されているのです。
【実践的なオノマトペの変換例】
- 投球のリズム: 「イチ、ニ、の、サン!」と数字で区切るのではなく、「ゆったり(始動)、クルッ(回転)、ピュッ(リリース)」と表現することで、言語化できない「間」や「タメ」を無意識に体得できます。
- 守備のハンドリング: 「右足を出して左足で合わせて…」と考えると足が止まります。「パッ(捕球)、パッ(持ち替え)、スロー(送球)」という音のリズムに合わせるだけで、動作の再現性が劇的に高まります。
- グラブさばき: 「手首を柔らかく」ではなく、「ボールを卵のように扱う」「水面をすくうように」といったメタファー(比喩)を掛け合わせるのも絶大な効果があります。
「体の動かし方」を長々と説明するよりも、理想のリズムを「音」で共有する方が、選手は自分の身体内部を監視することなく、自然と最高の動きを引き出せるのです。
【重要】外的焦点にも「適切なレベル」がある
ここまで外的焦点の素晴らしさを語ってきましたが、現場で指導する上で絶対に気をつけなければならない落とし穴があります。
それは「外的焦点の強さ・レベル」を見極めることです。
例えば、投球の出力(球速)を上げるために
「スピードガンの数字を更新しろ!」
「あのネットを突き破るつもりで投げろ!」
という目標(外的キュー)を与えるのは、運動連鎖を引き出す上で非常に有効とされています。
しかし、ここに現場と科学のギャップが潜んでいます。
選手の筋力や発達段階に見合わない強烈な「外的目標」を与えすぎると、結果を求めるあまり過剰に力んでしまい、逆に運動連鎖が崩れてしまうことがあります。
特に、急激に体が成長し、自分の身体感覚が一時的にズレてしまう「クラムジー期(中高生に多い)」においては注意が必要です。
無理な出力を引き出そうとして、結果的に肘や肩に負担をかけ、怪我を招いてしまっては本末転倒です。
「外的焦点を設定すればすべて解決」ではありません。
その選手が今、どんな発達段階にあるのか。そのイメージを体現できるだけの基礎筋力や可動域が備わっているのか。
指導者はそこを冷静に自己分析・観察し、「少し手を伸ばせば届くレベルの外的焦点(的の大きさ、音のイメージ、比喩表現など)」を微調整して提示する「目利き」が求められると思われます。
身体は勝手に「正解」を見つける
フォームの課題を見つけたり、動作の理屈を知ることは大切です。
しかし、いざグラウンドでプレイする瞬間に「体の部位」を意識するのは効果的とは言えません。
外側の目標や道具、あるいは音のリズムに意識を向けた時、人間の体は最も効率的なエネルギーの伝え方を勝手に探し出してくれます(自己組織化)。
次回は、この「言葉による指導」すら最小限に抑え、練習の環境や道具を変えることで勝手に理想の動きを引き出す「制約主導型アプローチ(CLA)」について、さらに深掘りしていきます。
成長(Grow)するために行動(Activity)を起こしていきましょう。―Grovity Baseball―



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