「野球選手のための休養(リカバリー)学」シリーズ、第4回です。
これまで、全3回を通して以下のテーマについて学んできました。
- 理論: 疲れには「体(筋肉)」と「脳(神経)」の2種類がある。
- 食事: 「いつ食べるか」と「水分」で回復速度が変わる。
- 睡眠: 「量」を確保することは、最強のトレーニングである。
今回は、これらの知識をふまえた「トレーニングと休養のジレンマ」を解決するスケジュール管理についてお話しします。
「上手くなるために練習したい。でも、休まないと怪我をする…」
この悩みは、真剣に野球に取り組む選手ほど深く突き刺さります。
毎日朝練があり、夕方はチーム練習、週末は試合…。
「休む暇なんてない」という現実もあるかもしれません。
しかし、ただ闇雲に練習を詰め込むだけでは、怪我のリスクが高まるばかりか、パフォーマンスも頭打ちになってしまいます。
今回は、限られた時間の中で最大の効果を出すための「強弱(High-Low)」のつけ方と、年代別の注意点、守るべき「投球制限のガイドライン」について解説します。
「毎日全力」が陥る「中強度(ミディアム)」の罠
まず、多くの選手が陥っている「落とし穴」についてお話しします。
それは、「毎日、全力(100%)で練習しようとする」ことです。
真面目な選手ほど、月曜日から日曜日まで、常に限界まで頑張ろうとします。
しかし、第1回でお話しした通り、脳(中枢神経)や筋肉の疲労が完全に抜けるには時間がかかります。
回復していない状態で次の日も「全力」を出そうとすると、どうなるでしょうか?
- 本当は100の力が出せるはずなのに、疲労で80しか出せない。
- 翌日はさらに疲れて70しか出せない。
- でも、本人は「全力(その時点での限界)」で頑張っているつもり。
これをスポーツ科学では「ミディアム(中強度)の連続」と呼びます。
毎日70〜80点の練習をダラダラ続けても、体は「その強度」に慣れてしまい、球速アップやスイングスピード向上といった「100点の出力」が必要な成長は起こりません。
ただ「疲労」と「怪我のリスク」だけが積み上がっていく、非常に効率の悪い状態です。
「毎日頑張る」ことと「毎日成長する」ことはイコールではありません。
メリハリをつける「High-Low(ハイ・ロー)」モデル
では、どうすればいいのか?
効率よく成長するために取り入れたいのが「High-Low(ハイ・ロー)」モデルという考え方です。
これはシンプルに、練習の強度を「高い日(High)」と「低い日(Low)」にはっきり分けるという方法です。
Highの日(強度:90〜100%)
- 目的: 限界突破。最高速度、最高出力を出す。
- 内容: 全力投球、全力スイング、実戦形式、高重量トレーニング。
- ポイント: ここで100%を出し切るために、前日にしっかりと疲労を抜いておく必要があります。週に2〜3回が目安です。
Lowの日(強度:60%以下)
- 目的: 回復促進、フォーム確認、感覚の修正。
- 内容: 軽いキャッチボール、フォームドリル、ストレッチ、軽めのジョグ。
- ポイント: 絶対に全力を出してはいけません。 「サボり」ではなく、「次のHighの日に爆発するための助走」です。
「High」と「Low」を交互、あるいはバランスよく配置することで、常にフレッシュな状態で質の高い練習(High)ができるようになります。
「Lowの日」は何をすればいい?(攻めの休息)
「Lowの日は、家で寝ていればいいんですか?」
もちろん、疲労困憊なら完全休養も必要です。しかし、おすすめなのは「アクティブリカバリー(積極的休養)」です。
完全に体を動かさないよりも、「あえて軽く体を動かす」方が、疲労回復が早まることがあります。
軽く体を動かして血流を良くすることで、体内に溜まった疲労物質を洗い流す効果があるからです。
【Lowの日にやりたいこと】
- フォーム確認: バットやボールを使わず、鏡の前でシャドーピッチングやスイング確認。
- ストレッチ・ヨガ: 可動域を広げながらリラックスする。
- 散歩・軽いジョギング: 息が上がらない程度で20分ほど。
試合の翌日など、「体が重いな」という日こそ、強度をグッと落として体を整えることに時間を使ってみてください。
【年代別】身体的特徴に基づいたスケジュール管理の鉄則
世代ごとの身体的特徴に合わせたスケジュール管理のポイントをお伝えします。
子供は「小さな大人」ではありません。
年代によって「壊れやすいパーツ」が全く違うため、管理の基準も変える必要があります。
小学生(〜12歳):無限の体力と脆い骨
- 身体の特徴:
この時期の子供は、心肺機能や代謝の回復が大人より早いため、走り回ってもすぐに息が整い、「無限に練習できる」ように見えます。
しかし、これが最大の落とし穴です。
関節(骨端線・成長軟骨)はまだ柔らかく、筋肉や靭帯よりも強度が低いため、大人が「疲れた」と感じる前に、骨が悲鳴を上げて損傷(野球肘・野球肩)してしまいます。 - 管理の鉄則:
- 「疲れていなくても」強制的に休ませる: 本人の「まだ投げられる」は当てになりません。
- 完全なノースロー日を作る: High-Low以前に、週2日以上はボールを握らない日を作り、骨の成長を阻害しないことが最優先です。
- 多様な動き(マルチスポーツ): 野球の動きばかり繰り返すと特定の骨に負担がかかるため、水泳やサッカーなど他の遊びを取り入れることが、運動能力をあげつつ、負荷を分散させられて、怪我を予防することになります。
中高生(13〜18歳):リスク最大化の「魔の期間」
- 身体の特徴:
身長が急激に伸びる時期(成長スパート)です。
骨が伸びるスピードに筋肉の柔軟性が追いつかず、体が硬くなりやすいため、「身体操作の不器用さ(クラムジー)」が生まれます。 さらに、筋肉量が増えてパワーが出るようになるため、「自分のパワーで自分の体を壊す(自己破壊)」リスクが最も高い時期です。 - 管理の鉄則:
- High-Lowの徹底導入: 週末の試合ではアドレナリンも相まって心身ともに120%の負荷がかかるため、月曜日は「完全オフ」または「回復に重きをおいてストレッチのみ」にする勇気が必要です。
- 痛みの感度を上げる: 「体が硬いな」「なんとなく違和感があるな」という日は、即座にLowメニュー(フォーム確認のみ)に切り替える判断力を養わせてください。
大学生・大人(19歳以上):戦略的メンテナンス期
- 身体の特徴:
骨の成長が止まり、体は頑丈になりますが、「回復速度」は確実に遅くなります。
特に腱や靭帯の修復には時間がかかるため、学生時代と同じ感覚で投げ込むと、疲労が抜けずにパフォーマンスが低下し続けます。 - 管理の鉄則:
- 「太く短く」集中する: 毎日ダラダラやるのではなく、Highの日に強度を凝縮し、それ以外はLow(リカバリー)に徹するメリハリが不可欠です。
- 仕事や学業との両立: 仕事や学業の疲れも「疲労」としてカウントし、残業や徹夜での課題が続いた週は練習強度を落とすなど、トータルでの負荷管理(マネジメント)が長く現役を続けるカギになります。
世界基準のガイドライン「Pitch Smart」を知ろう
最後に、具体的な「投球制限」の目安をご紹介します。 これはMLB(メジャーリーグ)と米国野球連盟が策定した「Pitch Smart(ピッチ・スマート)」というガイドラインです 。 日本のガイドラインよりも詳細で厳格ですが、選手の未来を守るためには非常に参考になる基準です。
【年齢別・1日の最大投球数と休息日の目安】
| 年齢 | 1日最大球数 | 0日休息 | 1日休息 | 2日休息 | 3日休息 | 4日休息 |
| 7-8歳 | 50球 | 1-20球 | 21-35球 | 36-50球 | – | – |
| 9-10歳 | 75球 | 1-20球 | 21-35球 | 36-50球 | 51-65球 | 66球+ |
| 11-12歳 | 85球 | 1-20球 | 21-35球 | 36-50球 | 51-65球 | 66球+ |
| 13-14歳 | 95球 | 1-20球 | 21-35球 | 36-50球 | 51-65球 | 66球+ |
| 15-16歳 | 95球 | 1-30球 | 31-45球 | 46-60球 | 61-75球 | 76球+ |
| 17-18歳 | 105球 | 1-30球 | 31-45球 | 46-60球 | 61-80球 | 81球+ |
※「○日休息」とは、試合での登板がない日(ノースローが望ましい)を指します。
例えば、12歳の選手が試合で40球投げた場合、翌日は必ず2日間の休息(登板禁止)が必要です。
「まだ投げられる」という感覚ではなく、この数字を「絶対的なブレーキ」として活用することで、使いすぎによる故障を未然に防ぐことができます。
実際にこれを忠実に守っている人は少ないと思いますが、現実としてこれは自分達よりも詳しい専門家が研究を重ねて出した数値だと思います。
自己判断でもう少し投げるなど突き進むのはある程度本人の自由かと思いますが、指導者という立場であればセーブさせる方向でアプローチしていくことが望ましいと思っています。
また、私の感覚としても「全然投げられないじゃん?」と思うところはあります。
そのため、投球(投げる)以外に、成長に必要な練習メニューの引き出しを知っていく必要はあると思います。
まとめ
今回のまとめです。
- 「毎日全力」は停滞の元: 毎日70〜80点で練習しても、体は慣れてしまい成長しない。
- High-Lowのメリハリ: 「100%出す日(High)」を作るために、あえて「落とす日(Low)」を作る。
- Lowの日の過ごし方: 完全休養だけでなく、軽く動いて血流を良くする「アクティブリカバリー」が効果的。
- 年代の罠を知る: 小学生は「骨」、中高生は「急成長とパワー」、大人は「回復速度」を考慮する。
- 数字で守る: 感覚に頼らず、Pitch Smartのような客観的な基準でブレーキをかける。
スケジュール管理とは、サボることではありません。
「自分の体の声を聞き、自分で強度をコントロールすること」です。
これができるようになれば、あなたはもう「やらされる練習」から卒業し、自ら成長を作り出せる選手になっているはずです。
ぜひ、今週の予定から「High」と「Low」を意識してみてください。
成長(Grow)するために行動(Activity)を起こしていきましょう。―Grovity Baseball―



コメント