#8 休養学③ 睡眠は練習成果を最大限活かす重要なトレーニングの一つである

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「野球選手のための休養(リカバリー)学」シリーズ、第3回です。

第1回で「理論」、第2回で「食事」についてお話ししてきましたが、今回はリカバリーにおける王様とも言える「睡眠」についてです。

「睡眠が大事なんて、耳にタコができるくらい聞いてるよ」
「質を高めれば、短時間でも大丈夫でしょ?」

その油断が、選手としての成長を止め、選手生命の寿命を縮めているかもしれません。

今回は、最新のスポーツ科学が証明したデータと共に、「なぜ睡眠の『量』が絶対正義なのか」をお話しします。

これは単なる健康管理ではなく「睡眠」という名の、最も難易度が高く、最も効果のあるトレーニングの話です。

「質」より「量」が絶対である科学的理由

まず結論から言います。

「スポーツ選手にとって睡眠時間は、長ければ長いほどいい」 というのが最新スポーツ科学における結論になります。

よく「短時間でも質が高ければいい」という話を聞きますが、野球選手においてそれは間違いです。なぜなら、人体の回復システムは「物理的な時間」を必要とするからです。

その理由は大きく2つあります。

脳のゴミ掃除には「時間」がかかる(中枢神経の回復)

第1回で「脳の疲れ(中枢性疲労)」の話をしました。

実は、脳の中に溜まった疲労物質(アミロイドベータなどのゴミ)は、寝ている間にしか除去されません。

脳には「グリンパティック系」という洗浄システムがあり、睡眠中に脳細胞が縮んで隙間ができ、そこを脳脊髄液が流れてゴミを洗い流します。

そして重要なのは、この洗浄プロセスには「物理的な時間(長い睡眠時間)」が必要になります。

いくら質の高い睡眠でも、時間が短ければ脳に溜まった疲労物質が除去されないままとなり、判断力や集中力が鈍ったままプレーすることになります。

テストステロンが「24%」も低下する

ある研究では、わずか一晩の睡眠不足で、筋肉を作り意欲を高めるホルモンである「テストステロン」が約24%も低下することが分かっています。

この24%という数値は、「たった一晩で、若者のホルモンレベルが高齢者レベルまで落ちてしまう」ということを意味しています。

これでは、どんなに筋トレをしても筋肉はつきません。

総括すると、「睡眠時間を確保しない。寝ない。」ということは、脳をゴミだらけにし、体を老化させているのと同じことなのです。

寝るだけで能力が覚醒する

「寝ないと悪影響がある」だけではありません。「たくさん寝ると、能力が劇的に向上する」というポジティブなデータもあります。

事例1:バスケットボール選手

スタンフォード大学の研究チームが、慢性的な睡眠不足(平均6〜7時間)の男子バスケットボール選手を対象に、「睡眠時間を10時間とる」ように指示し、5〜7数週間過ごさせたところ

  • バスケットコートを縦に1往復半走るタイムが平均16.2秒から15.5秒になった。
  • フリースローの成功率が9%、3Pシュートの成功率が9.2%向上した。

というデータが得られました。

事例2:メジャーリーガー

メジャーリーガー17人に対して、5日間、通常の睡眠時間よりも1時間長く睡眠をとることを実施し、

  • 認知処理速度の反応速度が13%(122ミリ秒)向上した 。
  • 視覚的な妨害刺激が存在する中での反応時間が66ミリ秒短縮された 。
  • 疲労スコアは39.7%減少し、緊張は33.8%減少した

というデータが得られました。

この認知処理速度「122ミリ秒(0.122秒)」の向上というのは野球において衝撃的な数値です。

ピッチャーが投げた150km/hのボールがホームに届くまでは400ミリ秒(約0.4秒)です。

122ミリ秒反応が速くなれば、ボールに対してのアプローチのしやすさは格段に変わると思われます。

たくさん寝るだけで、足が速くなり、ボールがよく見えるようになるということが起こってしまうほど、睡眠量は大切であるということが言えるのではないでしょうか。

睡眠不足で怪我のリスク1.7倍

睡眠不足は怪我のリスクにも直結します。

中高生アスリートを対象とした研究で、睡眠時間が8時間未満の選手は、8時間以上寝ている選手に比べて「怪我をする確率が1.7倍高い」という結果が出ています。

睡眠不足になると、自分の体の位置を感じる能力(固有受容感覚)が鈍り、フォームが崩れたり、一歩目の反応が遅れたりすることが原因でとなり、それが積み重なって大きな怪我に繋がる可能性が高くなります。

「睡眠」はコンディション管理ではなく「スケジュール管理」

ここまで読んで、「寝なきゃいけないのは分かった。でも時間がないんだよ!」と思った方。

その気持ち、痛いほど分かります。

仕事、家事、勉強、塾、そして練習。 現代人は大人も子供も忙しすぎます。

私自身、この「睡眠時間の確保」が一番難しく、今でも試行錯誤しています。

これまでの「食事」の話とは違い、睡眠確保は生活そのものを変える必要があるため、難易度が桁違いに高いと感じています。

ただ、確実に言えることは、睡眠は「余った時間でとる休息」ではなく「最初に確保すべき予定(トレーニング)」であると認識し、意図的にスケジュールの中心的存在に位置付ける必要があるということです。

「やることが終わったら寝る」 から 「睡眠時間(8時間以上)を確保して、残りの時間でやることを終わらせる」という順序でスケジュールを組んでいくことが重要になると思います。

優先順位の第1位を「睡眠」に固定し、ダラダラ過ごす時間や、意味のない夜更かしを「削る」。

睡眠以外の何か他の時間をを捨てる勇気を持つこと。

必要な睡眠時間は各個人によって差がありますが、確保する時間の目安については

  • 小学生(6〜12歳):9〜12時間
  • 中高生(13〜18歳):8〜10時間
  • 大学生、大人(19歳以降):7〜9時間

になります。

言うのは簡単で、これらを実践するのは難しいと思います。

しかし、これが一流になるための「スケジュール管理能力」であり、実際にこれを実践できるかどうかが、活躍するかどうかの分かれ目になるぐらい重要な要素なのではないかと私は感じています。

質のカギは「脳の鎮静化」。興奮モードをオフにしよう

睡眠時間を確保できたら、休養のスケジュールの土台はほぼ完成したと言っていいと思います。

せっかくであれば「睡眠の質も確保したい」という思いも出てくると思うので、そこについても触れておきます。

ちなみに、睡眠の質が良い状態とはどういうことかご存知でしょうか? 一般的には「布団に入ってから15分以内に入眠できること」が、質の良い睡眠への入り口だと言われています。

睡眠の質で最大の敵になるのが「脳の興奮」です。
よく「スマホのブルーライトが良くない」と言われますが、現場感覚としてもっと深刻なのは、光そのものよりも「脳が戦闘モードに入ってしまうこと」だと思っています。

  • 対戦ゲームで勝って興奮する(ドーパミンが出る)。
  • SNSで他人の投稿が気になって次々見てしまう。
  • マンガの続きが気になって止まらない。

これらは全て、脳を覚醒させます。

体はヘトヘトに疲れているのに、脳だけがギンギンに起きている状態。

これでは、ベッドに入っても深い睡眠には入れません。

睡眠の質を上げるための具体策

  1. 寝る前の「興奮」を絶つ: スマホに限らず、脳がワクワク・ドキドキするコンテンツは寝る1時間前から遮断しましょう。
  2. 朝、太陽の光を浴びる: 朝起きてすぐ光を浴びると、夜に自然と眠くなるスイッチ(メラトニン)が入ります。
  3. お風呂で体温を上げる: 寝る90分前にお風呂に入る。上がった体温が下がるタイミングで、人間は強烈な眠気を感じます。

まとめ:寝ることの重要性と注意点

今回のまとめと最後に注意点を付け加えて終わりとします。

  • 質より量: 脳の洗浄には「時間」がかかる。短時間睡眠はゴミを残したままプレーするのと同じ。
  • パフォーマンスアップ: 寝るだけで反応速度や判断能力は向上する。(科学的事実)
  • 怪我予防: 8時間睡眠は怪我予防にもなる。

スケジュール管理ができて「毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる」 これができれば、自律神経が整い、パフォーマンスも安定しやすくなります。
好調不調の波が小さくなるということです。

最後に:眠れない夜があっても大丈夫

ここまで「睡眠は大事だ!時間を確保しろ!」と強くお伝えしましたが、これをプレッシャーに感じすぎないでください。

「早く寝なきゃ」と焦れば焦るほど、脳が興奮して逆に眠れなくなってしまいます。 人間ですから、どうしても眠れない日もあります。

そんな時は安心してください。

「部屋を暗くして、横になって目を瞑っているだけ」でも、身体の疲労の多くは回復しています。

一番大切なのは、睡眠時間を確保するために「スケジュールを管理できた」という事実です。 ベッドに入る時間を確保できた時点で、あなたのトレーニングは9割成功しています。

眠れるかどうかは、先ほどお伝えした「質を上げる具体策」を少しずつ試していけば、自然とついてきます。 まずは焦らず、横になって体を休めることから始めてみてください。

成長(Grow)するために行動(Activity)を起こしていきましょう。―Grovity Baseball―

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